BLOG

「世界観をのぞく。」まるで静かな美術館。理想の女性をイメージしたアクセサリー|atelier eMuさん

「世界観をのぞく。」まるで静かな美術館。理想の女性をイメージしたアクセサリー|atelier eMuさん

作り手がこだわって生み出したリアルなお店は、どこもかしこも作家さんのものづくりの根底にある想いや願いが詰まった空間なのではないでしょうか。作品の魅力を引き立たせてサポートしてくれる空間や、その場所に流れている時間。作品へ込めた想いが滲み出ているかのように、選び抜かれた一つひとつの装飾。全てがその作家さん自身が作り上げた空間であり、ひとつの作品と言えるかもしれません。

 

実店舗を持つ作家さんのお店の様子を、作家さんの頭の中に広がる世界をのぞき見するようにご紹介する連載企画「世界観をのぞく。」今回は、富山のアトリエにて、真鍮を加工したオリジナルパーツに天然石やガラスを組み合わせたアクセサリーを制作する、atelier eMuさんをご紹介します。

Doily lace ピアス

〜atelier eMuとは?〜

富山県高岡市のアトリエ兼ショップにて、真鍮のオリジナルパーツをメインとしたアクセサリーを手がける。真鍮の板を大きなハサミで切り出したり、トンカチで叩いたり、時にはレースや小枝を型取るなど様々な工夫を凝らし、繊細で美しいオリジナルのパーツを作りあげています。

▲atelier eMuの新夛さん

今回は、お店づくりのこだわりから、店舗を設立した経緯、そしてものづくりへの想いに至るまでをatelier eMuの新夛(にった)さんにお伺いしました。

 ※感染症対策のためリモート取材を行い執筆しております。

 

お店に足を運ぶような気分で、その世界観溢れるお店をのぞいてみましょう。

▲まずはお店の外観から。住宅街に佇む、シックなグレーの壁が目を惹きます。
▲灯りに照らされている看板は、atelier eMuさんの「eMu」のロゴが施されたもの。職人さんの手によって、アクセサリーと同じ"真鍮"の素材で作られています。

お店の外からも、随所に散りばめられたatelier eMuさんのこだわりポイントに心がときめきます。OPENの文字が目に入ると、「お店の中にはどんな世界観が広がっているのだろう」そんな気持ちにさせてくれます。

お店の中へ、お邪魔します。

お店の外観の印象をそのままに、グレーを基調としたシックな店内が広がっています。丁寧に並べられたアクセサリーや什器たちが温かみのある明かりで照らされ、静寂な美術館でじっくりと時間をかけて作品を鑑賞しているような心地も。

ーーとってもシックで、落ち着きのある店内ですね。店内装飾全体のテーマなどはあるのでしょうか。

新夛さん:真っ白で洗練された空間とはまた違うのですが、美術館をイメージしています。東京都庭園美術館が好きで、「美術館」だけれど、そこにいることで落ち着くあの空気感を思い出しながら、アクセサリーをディスプレイしています。アクセサリーを展示するために使うピアススタンドやネックレスハンガーも手作りしたり、既製品のものを使う場合でも手を加えて、少しでもeMuという世界観が作れたらいいなと思っています。

▲まるで、影まで作品の一部のよう。豆電球から什器(ディスプレイ)のシルエット選びや配置に到るまで、細部までこだわりが感じられます。

ーーお店全体を包み込んだようなグレーの壁が印象的に感じます。この落ち着きある壁には何かこだわりがあるのでしょうか。

新夛さん:「水墨仕上げ」という名前の塗り壁で、私もとても気に入っています。中に墨の粒が入っていて、コテで炭の粒をすり潰しながら塗ると濃淡のある仕上がりになるのですが、左官職人さんの塗り方によって仕上がりが全然違うものになるんです。この塗り方にもとてもこだわりました。

この塗り壁の選択は私の中でとても大きな冒険でしたが、職人さんにも私の好みが伝わり、希望通りの仕上がりにしていただき大満足です。引っ越してから5年弱ほどになりますが、今でも壁を見て惚れ惚れすることがあるくらいお気に入りです。この水墨仕上げの塗り壁が、アクセサリーの世界観を表す、大きなサポートになっていると思います。

いかに作品を引き立たせるか、サポートするかという点でも内装の至る所にこだわりが詰まっていた店内。内装一つも、大きな作品のように感じられるよう。

ーー壁の塗り方までもこだわられていたという点で、アクセサリーのみならず、様々なものづくりに興味がおありなのかと感じたのですが、atelier eMuさんが作家活動を始めたきっかけはどんなものだったのでしょうか。

新夛さん:裁縫が得意な母、そして絵を描く事とものづくりが得意な祖父の影響なのか、小さな頃から手を動かして何かを作ることが好きでした。高校生の頃は工芸高校で漆工芸を専攻し、高校卒業後は大阪のデザイン系専門学校へ進学しましたが、ものづくりの楽しさが忘れられず、その時趣味で作っていたアクセサリーの道へ。ビーズショップのスタッフとアクセサリーデザイナーのアシスタントを掛け持ちしながら自宅でもアクセサリーを作り、イベントなどにも参加するようになりました。これといったきっかけが何だったのか思いつかないくらい自然な流れで今に至ります。

ーー小さな頃からずっとそばに、当たり前のようにものづくりが存在していたんですね。そこから実店舗を持とうと思ったきっかけや経緯はどんな流れだったのでしょうか。

新夛さん:大阪から富山に戻ってきた20歳の時、自宅の小さな一部屋でアクセサリーの手作り教室を開いていたんです。当時地元の新聞やテレビで取り上げていただいたのをきっかけに、「アクセサリーを販売していないの?」という問い合わせをよくいただくようになりました。そんな声がずっと心に残っていたある日、富山県氷見市の海沿いの町にある祖父の家からすぐ近くの存在をふと思い出し「あの場所でお店を開こう!」と、本当に思いつきでした。

その足ですぐ見学させてもらい、その日のうちお店を開くことが決まり……今思うと若いからこそ勢いでできたことかなと思います。内装は祖父に床材を貼ってもらったり、希望を伝え棚を作ってもらったり。それを家族でペンキを塗り、手作りの内装で仕上げました。


2017年、富山県高岡市に引っ越すのを機に、自宅にアトリエ兼ショップを併設しました。 高岡は高岡銅器や高岡漆器などの伝統産業がとても盛んで、「ものづくりの町」と呼ばれています。工場見学や体験ができる施設やイベントもよく開催されていて、小・中学校の 授業では職人さんから直接指導していただける「ものづくり•デザイン科」という授業が正式科目となっていたりもするんです。高岡だけでなく、富山県内でも少し足を伸ばせばガラス、彫刻、和紙など、いろいろな工芸品に触れられるのがこの地域の魅力だと感じています。

▲取材を行ったのはちょうど12月。店内には大きなクリスマスツリーが飾られていました。圧巻です。
▲オーナメントとして飾られている中には、真鍮で手作りされたオリジナルのパーツも。ただ飾るだけでなく、そこにオリジナリティーをプラスする、作家さんのこだわりが感じられます。

ーーツリーのオーナメントとしても飾られていますが、手が込んだ繊細な作品が至る所にディスプレイされていますね。制作において、特にこだわっている点について教えてください。

▲店内にあるアトリエスペースにて、日々新たな作品が生まれています。

新夛さん:全てのアクセサリーに必ずオリジナルの手作りパーツを使用しているところがこだわりです。真鍮のパーツは一度真っ黒に燻してから磨き、アンティークのような風合いになるように手を加えています。かなづちで叩いて作る槌目という模様や、一文字ずつ叩いて打ち込む刻印の角度や力加減、チェーンの長さの一コマの違いなど、自分の中でしか分からないような感覚の世界ですが、小さなこだわりがたくさん詰まっています。

▲制作したオリジナルの真鍮パーツに、天然石やガラスのパーツを組み合わせていきます。

Flower bud ネックレス

▲本物の小枝から型を取って作られた、真鍮のネックレス。木の実のように寄り添うパールが上品ですね。

新夛さん:身につけて自分らしくいられる、大人の女性に向けたアクセサリーを制作しています。私自身もatelier eMuのアクセサリーを身につけるとほんの少し背筋がシャンとして、心穏やかに過ごすことができています。植物やレースをモチーフにしたり、アンティークな風合いに仕上げたりと、手作りのあたたかみを感じてほしいな、と思いながら作っています。

ーー繊細なオリジナルパーツは、作家さんご自身が細やかに手を加えることによって生み出されていたのですね。私も、実際に手にとって眺めてみたくなりました。Creemaをきっかけにお店に足を運ばれたお客さまはいらっしゃいましたか。

新夛さん:Creemaで販売するようになってから、富山以外のいろんな地域の方からご注文をいただく事が増えました。自社サイトと違い、Creemaでは私のことを知らない方でも、ピックアップや検索をきっかけにギャラリーページにたどり着いてもらえます。Creemaでご覧いただいたのがきっかけで、なんと埼玉から富山まで来ていただいた事もあります。富山は交通の便が良いとは言えない場所なのですが、そんな中でも電車を乗り継いで来ていただいたのは本当に嬉しかったです。

ーー実際の作品を見るために埼玉から…!Creemaによって繋がった嬉しいご縁にほっこりとしました。それでは最後に、atelier eMuさんの今後の抱負について教えていただけますでしょうか。

新夛さん:atelier eMuのアクセサリーは、私自身がこうでありたいという一人の理想の女性をイメージして作っています。「アクセサリーは自分そのもの。作り手の思いをどこまで純粋に込められるか。」これは10年ほど前にコピーライターの方が私の話を聞いて書いてくださった言葉なのですが、この言葉はきっと私の中で道標としてずっと心に残り続けると思っています。10代の頃から作っているアクセサリー、この先私が歳を重ねても軸をぶらすことなく、私らしいアクセサリーを作り続けたいです。

 

このように作家としての内面を見ていただくことはあまり無いので、貴重な機会をいただいたこと、本当にありがとうございました。このページをご覧いただいた方にもatelier eMuの世界を少し覗いていただけると嬉しいです。

取材を終えて

お店の入り口にはアクセサリーの素材と同じ、真鍮の看板が掛けられ、店内に入ると繊細な輝きを放つアクセサリーたちがそっと出迎えてくれる。atelier eMuさんがものづくりを始めた10代の頃からブレずに守り続けた、唯一無二の世界観が匂い立つようなお店でした。

 

OPENの看板はatelier eMuさんの手作りだそう。真鍮で作られているので、お店に流れる時間とともに味わい深い色へと変化していきます。作家さんが選んだ真鍮という素材の経年変化が、空間全体の世界観を引き立たせ、魅力的なものにしているんだなぁと感じました。

 

これからも、お店の看板と、軸をぶれずに作り上げられるatelier eMuさんの作品、どちらもが味わい深くなっていくことでしょう。この度は、取材にご協力いただいたatelier eMuの新夛さん。本当にありがとうございました!

atelier eMuさんのギャラリーページはこちら

この記事を読んだ人におすすめ!

「世界観をのぞく。」UZUiROさん 〜「もったいない」をとことん生かす。地域から届ける心地よい服づくり。

地元の生産者さん達とともにアパレルを手がける「UZUiRO」さんの実店舗をご紹介します。古民家を改装して作り上げたという味わい深いお店の様子とともに、作家活動を始めるまでのエピソードや、手がける服へのこだわりをうかがいました。お店を通して、作家さんの頭の中に広がる世界をのぞいてみませんか……?

[お手入れ講座]家にあるもので簡単にできる、真鍮アクセサリーのお手入れ方法

真鍮アクセサリーを長く楽しむための、お家でできる簡単なお手入れ方法はこちらでご紹介しています。

暮らしとともに変化を楽しもう。真鍮インテリアのある暮らし

暮らしと共に育つ金属・真鍮を使ったインテリアはこちらでご紹介しています。

これまでの作り手インタビューはこちら

ブログで紹介する▼
HTMLコードをコピーしてブログに貼り付けてください
同じカテゴリーの記事
人気の記事