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「世界観をのぞく。」"もったいない" をとことん生かす。地域から届ける心地よい服づくり。|UZUiROさん
作り手がこだわって生み出したリアルなお店は、どこもかしこも作家さんのものづくりの根底にある想いや願いが詰まった空間なのではないでしょうか。お店のある土地と作品との結びつき、その場所に流れている時間。手に取って触れることで気づく素材の風合いや、黙々と作業をする作り手との交流。全てがその作家さん自身が作り上げた空間であり、ひとつの作品と言えるかもしれません。
実店舗を持つ作家さんのお店の様子を、作家さんの頭の中に広がる世界をのぞき見するようにご紹介する連載企画「世界観をのぞく。」
自ら描いた空想の世界を雑貨へと生まれ変わらせるクリエイター・空想街雑貨店さんをご紹介した第1回に引き続き、今回は、愛知県西尾市三河湾のほとりにある工房から、地元の生産者さん達とともにアパレルを手がけるUZUiRO (渦-uzu-)さんをご紹介します。
〜UZUiROとは?〜
愛知県三河エリアにて、地元の生産者さん達と共に地産の素材を使ったアパレルを企画、制作しているアパレルブランド。2016年より夫婦でお店を始め、産地の技術を大切にしながら、心地よい素材選びやデザインにこだわった衣類を中心に制作しています。2021年7月よりブランド名称を【渦-uzu-】→【UZUiRO】へリニューアルしました。
今回は、UZUiROのオーナーでありトータルプロデュースを手がける青木さんにお店をご案内していただきながら、店舗を設立した経緯からものづくりへの想いに至るまでお伺いします。
※感染症対策のためリモート取材を行い執筆しております。
では早速、その世界観溢れるお店をのぞいてみましょう。
ーーとても素敵な佇まいの古民家だと思うのですが、そのお店はどのような経緯で作られたのでしょうか。もともとお店のある場所にはゆかりがあったのですか?
青木さん:実は、うちのおばあちゃん家なんです。おばあちゃんが亡くなってから10年以上空き家で物置みたいになっていたんですよ。当時はうちも第一子が生まれて、平屋で広いところに住みたいという想いもあり、ここに住み始めたんです。当初はその一室だけをギャラリー空間にしよう!という思い付きで始めたんですけど、DIYしていくうちに楽しくなり、全部お店にしてしまいました。
ーーお店の改装はお二人で手掛けたのでしょうか。
青木さん:業者には頼まず、自分たちで好きなようにDIYをしました。夫婦二人ともDIYの経験も無かったので、いちから調べながら始めました。
お店にある什器も近くの親戚のおばさんが「古いのこれ使えるからおいてくわ」と言って置いていってくれたものや、近くに住むおじさんが、お店で5~60年前に使われていた椅子を持ってきてくれたり……、どれも地域の人が持ち寄ってくれたものや、拾ってきたものがほとんどですね。
七変化スヌードポンチョ/ワイルドチェリー/三河産ニット
僕たちは、なんでも新しくするというよりか、「あるものをどう生かすか」という考えが好きなんです。作っている服もそうですね。UZUiROが展開するブランドの中で、MOTTAiiNAというアップサイクル企画では、上質だけど残ってしまった生地を仕入れて、その良さを生かすといったものづくりもしています。
産地それぞれに、得意とする技術があります。その地域にある技術を生かした上で、どのような服が生み出せるのか……という考えが根幹にあります。お店にした古民家も、大切な場所を壊すのはもったいないという想いから、使わせてもらうことにしました。古いお家なので、什器が古いものでも雰囲気が出るんです(笑)
特に店内装飾のテーマは決めていないのですが、僕にとっても愛着がある古民家に、長い年月を積み重ねた什器を加えていき、自分たちが素敵だと思える空間へとDIYしています。もともとあった古民家の持つ味わい深くレトロな雰囲気を生かして、お店をつくり込んでいきました。
開業した頃は自分の好きなものを中心に作って販売していたのですが、だんだんとお客さんから「地元の生地が使われているから着心地が良いよね」という声をいただいたり、リラックスウェアとして着ている方が多かったので、徐々に実際に求められている製品(地産生地ゆえの着心地の良さ)を自分たちも作っていきたいなという考えに変わっていきました。
最初は本当に何でも作っていたんです。レザーの端切れをミシンで繋ぎ合わせたネームホルダーや、布製の名刺入れ、保育園で使うコップ袋や手拭きハンカチなど……あらゆるものを作っていたんですが、次第に実際にお客さんから求められていて、自分たちも作りたかったものでもあった「レディースのカジュアルウェア」に特化しようと思いました。
ーーいちばん最初は好きなものを作って販売されていた時期があったという事ですが、当時から地元の素材にこだわっていたんですか?
青木さん:本当に一番最初は、古着を切ってパッチワークをしたオリジナルの布小物を作っていたんです。簡単なホームページを作ってみたり、SNSで発信を始めてみると、友人から「私のも作って!」と注文が入るようになって。
ホームページやSNSでの見せ方を工夫していくと注文の量も増えてきて、いよいよ自分で生地を買わないといけなくなったんですよ。それで、近隣の三河エリアがかつては織物工場がたくさんあった場所だったことを知りました。僕がちっちゃい頃は向かいには紡績屋(ぼうせきや)があったし、すぐ近くにも友達の家業であった機屋(はたや)があったんです。
でも、今はもう大半は無くなってしまっていて、バブル前と比べると10分の1くらいまで縮小してきているんです。そういう現状を目にしたのもあって、小売店で買うよりかは、地元の工場で買う方がいいんじゃないかと思って、自分たちの足で回り出しました。
そういう工場に行くと、染められていない織りたての生地があるんですよ。でも、それを外部工場で染めてから製品を作るとなると、同じ色を大量に染めないといけないことに加え、時間もかかってしまう。それらの生地は小売店で産地が分かるような状態で、販売されていなかったんです。 最初は工場で余った残反を買わせてもらっていたんですけど、 それは真っ白なので染めれば色がつく!という事で、市内で長年染色をやっている方 に技術を教えてもらって、染めの服を作り出しました。
これが、今の地産生地を使ったものづくりの根幹。始まりのきっかけですね。
ーー最初は「地域をもっと知ってもらいたい!」というような想いから地産生地を使い始めたという訳ではなくて、とにかく夫婦足で回っていった事で、質の良い生地が近くにあったことに気づき、地産生地を使ったものづくりをスタートさせたという事なのですね。
青木さん:そうですね。使えるものは限定される印象はあったんですけど、寝具に使われているような多重ガーゼであったり、コットン素材の丈夫な生地だったりと、本来の使われ方ではなく、使い方を変えると面白いなという生地が多くて。
なので寝具系などを敢えてレディースアパレルに使ってみることもありました。やっぱり、直接足を運ぶと工場の方がいろんなことを教えてくださるので、なるほど……と思いながら、その生地の良さを生かす方向性へと変わっていきました。
ーーいちばん最初のものづくりは、リメイクから始められていたとのことですが、趣味としてのスタートだったのでしょうか。それとも今までアパレルでのお仕事経験などがあって、それを生かしてものづくりを始めたのですか。
青木さん:いえいえ夫婦二人ともアパレルの経験はないですね。僕は放送業界でして、妻は小・中学校の理科教師をやっていたので、全く別の世界から入ってます。なので、最初は半分趣味だったんですけど、作ったものを喜んで買ってもらえることが嬉しかったんですよね。
最初は、週末に開催されているような小さいマルシェに作った小物や染めた服を持って行って、売っていたりしていたんですけど、だんだんそれを本業にしたいと思い始めて、夫婦二人で話し合い、僕が運営側で、妻が制作側として本格的に活動を始めました。
ーー 一緒にお店をつくるという想いに至った原動力とは何だったのでしょうか。何もやったことのないものを、本気ではじめるというのって、強い想いがないとできないんじゃないかと思ったのですが。
青木さん:純粋に「やり出したら止まらん」ってところですかね。夫婦2人ともそういう性格なんです。
この辺には繊維工場とか縫製屋さんとか、染色整理加工場とかがあるので、企画からものが出来上がるまでを、この地域で一貫してできるんですよ。そこも魅力だと思っています。
この地域の素材を売りにしたブランドとか特になかったので、他との差別化もできますし。ものづくりをし続けていく中で、この地域で根を張って制作をしていくことにすごくメリットを感じるようになりました。
その辺(地域で一貫してものづくりができる、地域に魅力的な素材が集まっている)がなかったら、ここまで続けてこれなかったかもしれないですね。
ーー 一貫して地域で企画から作り上げるところも、UZUiROさんのこだわりなのでしょうか。
青木さん:そうですね、生地ひとつ出来上がるのにも沢山の工程があります。糸を糸商社さんが輸入し、それを工場や商社が買い付けて企画、そしてやっと生地が出来上がる……そのような工程を経て、生地は普段皆さんが目にするような店頭へと並んでいきます。
自分たちはその過程を、生地の企画段階から商品を届けるまで一貫してこの土地で行うことで、全て目の当たりにすることができますし、そこにはこだわっています。
例えば極端な話、どんな生地を使っても服の形には出来るんです。だからこそ、自分たちが生地を生産するところから、どういう加工を経ているのか(先に糸を染めるのか、生地を染めるのか、服になってから染めるのか等)、どこの工場でどうやって織って、どこで縫われているのか……という過程を全て把握するようにしています。自社でやることもありますし、委託する際にはできるだけ地域の工場で制作するようにしています。
ーー店舗ですと、直接お客さんとコミュニケーションが取れるというのも魅力の一つだと思います。オンラインでは無いお店ならではのサービスがあれば教えてください。
青木さん:お店に直接足を運んでいただければ、色が薄くなってしまったりシミがついてしまった衣類を、もう一度染めて長く着られるようにする「染め重ね」も行なっているので、お願いされることもあります。
最近は一枚のものを長く着続けたいという人が増えている印象があります。この間も、昔思い入れがある服にシミがついてしまったから、シミが目立たないようにざぶっと染めてくれというお客さんもいました。店頭だと特にそういうお客さんが多いですね。
ーー最後に、UZUiROさんのこれからの抱負について教えていただけますか。
まず一番は、お客さんにとって着心地が良くて喜んでもらいたいという想いがあります。
僕たちは「らしく、心地よく、着るたび好きになる」というテーマを掲げていて、うちの服を通して、快適に過ごしてもらいたいなと思っています。
そのために自分たちができることが地域の生産技術を生かして、服を作ってデザインするということなので、着心地がいい快適な服作りを、地元の技術ある工場の方と力を合わせて今後もやっていきたいですね。
世界中には様々な技術もありますし、色々と出来ることは広げられるとは思うんですが、急いで会社を大きくしたりせずに、この地で繋がりやチームワークを大切にしてずっと服を作っていきたいです。
自分たちの身の丈にあって出来ることを、ちょっとずつ大きくしていきたいと思います。
取材を終えて。
昔からあるものを素敵だと思うことのできる気持ちや、世の中の”もったいない”を大事に活用して、丁寧にものづくりに向き合う姿勢。
そんなUZUiROさんのブレない想いが、工房やお店での取材を通して、ひしひしと伝わってきました。
地元でものづくりを続けるからこそ、地域と向き合い続けることができる。まっすぐに、ひたむきに、そして丁寧に……。
実際に、服を購入された方の評価を見ると「とても肌触りがよかった」「着心地が最高です!」という喜びの声も多く寄せられています。その裏には、細部に至るまでのこだわりや素材とのストイックな向き合いがあったのですね。私もUZUiROさんの作る服に袖を通してみたい……という気持ちでいっぱいです。
ものづくりと人に真摯に向き合うUZUiROさん。今後はどんな作品が生み出されていくのでしょうか。いちユーザーとしても、楽しみでなりません。
この度は、取材にご協力いただいたUZUiROの青木さん!そしてスタッフの皆さま。本当にありがとうございました。