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造形 塗装職人・ハリモグラさん - 100歳まで、ものづくりで生きていく_作り手インタビューvol.13
こんにちは。クリーマの佐々木です。
植物と小さな造形が融合したハリモグラさんのプランター。
jinさんとayaさん、ハリモグラの2人が作るプランターには異空間を作る、独特な力があるような気がします。
その存在感に魅かれた私は、どうしてもハリモグラのお二人にお会いしたいと思いました。そして今回、お二人がいつも製作をしている週末のアトリエで、お話をお伺いしてきました。
気がつけば、「ものづくり」を軸に人生を歩んできたお二人。
技術が進化してものづくりの環境が変わる中、模索してきたことやこれからの夢や思いについて。
机の上に、見たことのない空間を作りたい(jinさん)
「植物の力で動く機械仕掛けのプランター」をモチーフにした"care pot"シリーズの作品や、"patina pot"シリーズを中心に製作するjinさんの作品は、つくり込まれた作品の背景や、どこか異空間を感じさせる雰囲気に魅了されます。
— いつも制作する上で考えていることや、作品に込めている思いを教えてください。
jinさん 「買ってくれる人に価値を感じてもらえるものは何だろう?と考えながら制作しています。
ハリモグラのプランターを置くだけで、机の上に異空間を作りだすような、そんなプランターを作りたいと思っています」
jinさん 「"care pot"の作品は、“いびつな愛情”みたいなことを表現したかったんです。
話しかけたり、音楽を聴かせたり、植物を全部世話してくれる機械のプランター。愛情の形って、その当時は大事なことだったとしても、あとから見たら変だったりする、でもそれが美しさだったりするじゃないですか」
もともと、美術やアートの分野で表現することにやりがいを感じていたjinさん。
現在のような作品を作るようになった背景には、「自分のやりたいことや好きなことを続けて、他の人にも喜んでもらいたい」という強い思いがありました。
— アート作品や美術作品の制作から、今のようなプランターをつくるようになったのにはどのようなきっかけがあったのですか?
jinさん 「僕は美術が好きなんです。ものを作ってない人も、服や髪型、アクセサリーを選んだり、話し方だったり、みんな本当は日頃から美術をやってるんですよ。話し方がキレイな人はそれが美術だ、と思うんです。
でも実際は「美術」ってなっちゃうと日本人は一歩引いてしまう気がします。それをもっと身近にしたいなと思って、プランターのようにちょっとでも興味を持ってもらえる手頃なものを作っています。
売れなくても好きなものを作るというだけじゃなくて、どうしたら伝わるかをちゃんと考えたい。
買ってもらう=理解してもらう・喜んでもらうということだと思うので、自分のやりたいことで何人の人に喜んでもらえるかということも考えながら、価値のあるものを作りたいという思いで制作をしています」
little tree
世に出ないような動物をプランターに(ayaさん)
動物のプランターを中心に制作しているのが、ayaさん。
私自身、ayaさんの「ワニさん」に一目惚れし、購入したひとり。
二人のお話を聞き始めてまず私が驚いたのは、ハリモグラのお二人は全く異なるアプローチで作品の制作に取り組んでいるということでした。
— てっきり私はjinさんとayaさんが役割を分担して、1つの作品を一緒に作っているのかと思っていたんです。でもよく比べて見てみるとお二人の作品は、印象や性格がはっきり違うことに気がつきました。 ayaさんは、どんなところから作品のアイディアを得て制作しているのでしょうか?
ayaさん 「彼と私は、作品の作り方が全然違うんです。私は可愛いものをふわっと作ってって感じ。
私は小さい頃から動物が好きで、最初は図鑑を見ながら植物をのせたイメージを想像して、これは絶対可愛い!って確信を持った動物を作ります。だから私の場合はあんまりラフスケッチを書かないで、すぐ作り始めるんです。
jinさん 「彼女の作品は、自然と滲み出てくる人間味と温かさや色の自由さがそのまま表現されているのが魅力だと思います。色も形も自分らしく表現がします」
— 私が購入させて頂いた「ワニさん」も、細かいところまでとってもこだわって色付けされていますよね。あの青色の「ワニさん」、実はお腹は黄色だったんです…!
鱗も一枚一枚少しずつ色が違って、指のところなんかも、薄く黄色が塗られていたり。実際に手に取って見てみると、本当にこの作家さんは楽しんで作品を作られているんだな、と感じられた作品です。
ayaさん 「ありがとうございます!私は作るのも好きなんですが、塗装が特に好きなんです。同じ形でも雰囲気がかわるから、楽しんでいろいろな作品を作っています」
また、私が当初から魅かれていたのは、ayaさんのその独特なモチーフ選び。
ayaさんがプランターに選んだ動物はタツノオトシゴ、とびうさぎ、ハリモグラやツチブタまで… !
— この子を作ろう!とモチーフにする動物を決める、決め手は何ですか?
ayaさん「あんまり世に出ないものをモチーフにして作りたくて、ツチブタつくろう、とか、ハリモグラを作ろうとか決めています。ツチブタって同種の動物がいなくて、1種類だけなんですよ!
そんな動物に愛着が湧きます。ありきたりじゃない、見たことがないものを作るほうが面白いんです」
買った人に喜んでもらえるものを作りたい
— モチーフ選びから塗装まで、とても自由なインスピレーションで制作されているから、こんなに楽しげで生き生きした表情のプランターになるんですね。
ayaさん 「自分が欲しいもの、飾りたいものを作っています。共感が得られて他にも欲しい人がいたら、じゃあたくさん作ろう、と思ってまた制作したり。
自分が好きなものをほかの人も欲しいって言ってくれるのが、とても嬉しいです」
jinさん 「作品の性格は違いますが、やっぱりふたりとも喜んでもらえることが好きなんです。それが嬉しくて、お互い制作意欲になっていますね」
「週末の趣味」から、「お客さんとやり取りを楽しむ作家活動」へ
今のようにたくさん作品を制作するようになったのは、ハンドメイドサイトが盛り上がりをみせてからだというハリモグラのお二人。
— Creemaに出品するようになって変わったことはありますか?
jinさん 「以前は、自分の作品も週末に少し作るだけでした。Creemaで販売を始めてからは、本当にたくさんの人に自分たちの作品を手にとってもらえるようになりました。
ハンドメイドサイトがなければ、ただの趣味で終わっていたと思います。作品を売って買ってもらえるということには、お客さんとやり取りをできる楽しさ、嬉しさがあります」
ayaさん 「私はこれから少しずつ、自分の作品作りに時間をかけて、もっとたくさんの作品を購入者さんに手に取ってもらえたらと思っています。やっぱり、自分が作りたいものを売れること以上に楽しいことはないですね」
100歳までものづくりで生きていく
同じ造形の会社で、2人で製作を担当していたjinさんとayaさん。
jinさんは、原型の造形を、ayaさんは塗装を専門としていました。
当時から、自分たちのものを作りたい・表現したい、という思いから、仕事と同時並行で、休み時間や週末に作品づくりをしていたそうです。
そんな二人に、ものづくりに対する姿勢に変化が起きる転機が。
jinさん 「当時私は、原型師になりたいと思っていました。日本の原型師のレベルの高さはすごいんです。世界にも誇れる技術を持っていました。
ただ、技術が発展するにつれて切削機や3Dプリンターなどの機械が出てきて、技術力が以前ほど評価されなくなってきました。技術力が機械に取って代わられる時代だと感じたんです。
だから自分の目標も、将来的にはもっとソフトなものをやろう、作ろうと思うようになったんです。
今はものづくりの違う方法を模索しているところです。
ケアポットも、あれは全部CGで設計しているんです。そのあと3D切削機で形出しをして、そのままだと堅いから、その後温かみが感じられて柔らかくなるように手で形を変えています」
最近はものづくりを取り巻く時代の流れがとても早くなっていると感じます。機械や3Dプリンタは、ものづくりが持つ可能性を大きくしてくれますが、一方で貴重な技術や手作りならではのぬくもりが持つ価値と取って代わられてしまうのも事実。
「ものづくりで生きていく、という点に対しては一生懸命だと思います。いろいろ考えながら、模索中です」と伝えてくださったjinさん。
機械の登場によって目指していた夢が変わっても、新しい技術をうまく取り入れつつ、手でつくる価値を忘れない。そんな作家としての姿がとても印象的でした。
— これからのハリモグラさんの野望を聞かせてください。
jinさん 「ずっとこのままものづくりを一生続けていければいいな、と思っています。100歳まで続けられるように」
ayaさん 「最初は自分の作品が、まさか売れると思っていませんでした。私の作品をお金を出して買ってくれる人がいる。これが出来るなら頑張って続けていきたいなと思います」
jinさん 「実はいま、暴力的な作品とかも作ってみたいと思ってるんです(笑)
可愛い植物と暴力的なもの、対比されるものが一緒になってどうなるか、見てみたい。もう先のこと、これから作るもののことを考えています。その次は逆に、布でぬいぐるみみたいな柔らかいものを作ってみたいですね。そのときはjinとaya、一緒に制作するかもしれません。」
— ぜひ、お二人が一緒につくったプランターも見てみたいです。今後の作品も楽しみです!
インタビューを終えて
「一番思い入れのある作品はありますか?」と聞くと、「今制作中の作品でもいいですか?」というご回答を下さったjinさん。
「作品を制作している写真を撮らせてください。」と筆を持つポーズをお願いすると、本当に色塗りを始めて止まらなくなってしまう、ayaさん。
お話をしていたら、ますますハリモグラさんの世界観や思いに魅了されてしまいました。
ものづくりが大好きで、ものづくりを自分らしく続けている、ハリモグラのお二人。実際にお会いしてお話できたことは、私がこれからクリーマで頑張っていく意欲の源にもなっています。