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デザイナー・wasabi CRAFT(わさびクラフト)さん - 本当に欲しい物を形に_作り手インタビューvol.12

「自分が欲しいもの」「美しいと思うもの」「人に喜んでほしいもの」…

ハンドメイドの作品が生まれる背景には、かならず作り手の思いやストーリーがあります。

 

それが、「ずっと作りたかったもの」だったら、どんなストーリーがあるのでしょうか?

 

ある日、「ずっと作りたかったお財布」という名前の作品に目がとまりました。

クラフトデザイナー・wasabi CRAFT(わさびクラフト)さんのお財布です。

 

「ずっと作りたかった」とは、どんな思いなのか…。

その思いに触れたくて、作品を手に取らせていただいた時のこと。

ずっと作りたかったお財布

しっとりとした革の良いにおい。想像よりも大きくてサイズたっぷり。クラッチバッグのように優雅で上品。

ますます、その思いを知りたい気持ちがつのります。

 

そして今回、wasabi CRAFTさんのアトリエへお伺いし、お話をお聞きすることができました。

wasabi CRAFTさんのご自宅兼アトリエは、ふっと気持ちが和む畳のお部屋。ちょっとしたスペースにも、ユニークな小物が並んでいます。

温かい日本茶を淹れて、丸いお盆で運んで下さり、小さな木のちゃぶ台へ。その時にはもう、初めてお会いする緊張感よりも、ずっと居たくなるような心地良さが勝っていました。

 

最初に目にとびこんできたのは、wasabi CRAFTさんが使い込んだ革のバッグ。

しっかりとした型がありながら、持ち主によりそってきた、革の優しい表情がにじみ出ています。

 

wasabi CRAFTさん「これは、革の教室に通っていた時に初めて自分で型紙を起こして作ったバッグです。通勤時の混んでいる電車の中で周囲の邪魔にならないようにと、コンパクトサイズで作りました」

子供時代から「自分の好みに合わせて作りたい」

- wasabi CRAFTさんのものづくりの一番古い記憶はいつでしょうか?

 

wasabi CRAFTさん「祖父が桶の職人だったので、端切れの木材がたくさんあって、それで何か作ったというのが物心ついた頃の記憶です。また、父が大工だったので道具が身近にありましたし、保育園のときの持ち物は全部母の手作りだったりしたので、生活の中にものづくりが普通にあったのは確かですね」

 

- wasabi CRAFTさんご自身も、当時から作ることはお好きだったのですか?

 

wasabi CRAFTさん「作るのは好きで楽しかったですね。中学生の頃から、「作るんだったら自分が欲しいものを作りたい」という気持ちが強かったです。家庭科で習うスカートでもパジャマでも「お手本のままだとダサいから作っても着ないな、だったら着たいものを作ろう」と(笑)。だから当時から、自分の好みに合わせて作っていましたね」

建築士として歩んできた10年。「憧れていた家造りは、生活する人が作っている家」という気づき

wasabi CRAFTさんは、建築士としての顔もお持ちです。

平日は建築士として仕事をしながら、週末に制作活動をするというスタイル。

 

- ものづくりには、洋服や陶芸など、さまざまな道がありますが、その中でも建築を選んだ理由は何だったのでしょうか?

 

wasabi CRAFTさん「洋服も好きだったんですが、家庭科である程度作れるようになって、自分でいつでも作れるのかなと思いました。建築は専門的に学ばないとできないことだから、これから挑戦するなら建築をやってみたかった。そうして京都の大学に進んで、住宅設計やプロダクトデザインを学びました」

 

卒業後は、設計士として設計事務所に勤めたwasabi CRAFTさん。それからの10年間は、休みもままならないくらいの多忙な日々。それでも、自分の時間を見つけて、革のものづくりは続けてきたと言います。

- それほどお忙しい日々の中でも、ものづくりを続けるというのは、すごいパワーですね。どういう気持ちからだったのでしょうか?

 

wasabi CRAFTさん「建物に似て、バックは機能性ある容器だったりします。建築だと出来上がるには時間と人とお金がものすごくかかる一方で、バックはデザインから完成まで一人で少ない時間で完結できます。考えた形を気軽にたくさん試作できて楽しくなっちゃって」

 

- 設計の仕事とはまったく別の表現の場だったのですね。では、革のものづくりへの興味がふくらんだきっかけは何だったのでしょうか?

 

wasabi CRAFTさん「設計士として、こうしたら住みやすい、こういう間取りが良い、などと考えて住宅を設計してきました。でもその後に実際に住まわれた住宅を見てきて、自分が憧れていた家造りとは、そこに住み、生活する人が作っている家だったんだと気づきました。そう感じてからは、ハード(形)よりもソフト(中身)の方に興味が行くようになりました」

 

住宅建築に携わって10年。大きな心境の変化だったに違いありません。

 

そしてwasabi CRAFTさんは、ずっと続けてきた革のものづくりを本格的に取り組むため、京都から東京に住まいを移して、レザークラフトの教室に通うことを決めます。

革を一から学び、好きなものを作る日々

- 東京へ住まいを移しての新たなチャレンジは、大きな転機ですね。実際に革の教室に通ってみて、いかがでしたか?

 

wasabi CRAFTさん「革の教室には4年通って、基礎から学びました。あくまで教室なので、何年間と決まっている訳ではなく、通う期間は自分次第です。

ただ、いつしか、習った方法・スタイルしか作れなくなりつつありました。基本を身につけた上でオリジナルな製品を作っていきたいという気持ちがあったので、まだまだ習得すべき基礎があるとは思ったのですが、その基礎すら自身で見出していかないとオリジナリティを出した製品は作れないなと思って4年で卒業しました。今はこのアトリエで自分が欲しいものを作る日々です」

 

そして、「ずっと作りたかった革のお財布」が生まれます。

- いよいよ核心にせまります!「ずっと作りたかった革のお財布」はどのように誕生したのでしょうか?

 

wasabi CRAFTさん「お財布ほど高機能を要求されるアイテムはないと思います。本当に沢山の機能を追求したお財布がありますが、自分にとってどれも一長一短で、なかなかほしいものにありつけなかったんです」

 

-特にこだわった点や思い入れが強い点はどこでしょうか?

 

wasabi CRAFTさん「カードの枚数はどれくらいが適切か、日常の必需枚数をじっくり考えて設計しました。お札入れも、普段どれだけ入れているか考えつつ、倹約生活者としては出来ることならあまりお財布からお札は出て行って欲しくないので、目立たず容量も少なめに設計しています。

それに、補強のために芯を入れず、なるべくシンプルな資材と構成で作りたかったので、入れるべきものを入れることで強度を出そうと考えました。そこで収納するカードが芯材の代わりにもなってもらえるように、カード収納の形を作りました」

-このお財布は、カードが18枚も入って、がばっと開く広い小銭入れが特徴的ですよね。そして私が驚いたのは、ユニークな留め具です。

 

wasabi CRAFTさん「この留め金はドイツ製のロック式バネホックでオープンカーの幌(ほろ)を留めるために使われているものです。この財布が出来上がった時に、一番に目につく金具がかなり出っ張っているので、金具がこれじゃない方がいいと言われたことがあります。けれども今は金具の珍しさに喜んでくださる方がいたりもします。開閉のスピード感があの金具に勝るものが今の所みつかりません」

 

— つまんで開けるという、ちょっと変わった動きですよね。一度覚えると繰り返したくなるほど、このひと手間が心地良いです!

 

- このお財布はますます奥深いですね。使いこなしていくのが楽しみになります。持ち主には、どのように使っていって欲しいと思いますか?

 

wasabi CRAFTさん「このお財布は、とにかく使いまくって欲しいですね。そうして、使い込んだ状態を人に見せてもらうのが好きなんです。自分が予想もしないような使い方をする方もいます。だから作った時は同じ状態でも、使う人によって、全然違う状態になるんですよ。それが楽しい!改良のヒントにもなりますしね」

 

お財布も、家と同じ。使う人によって形を変えていきます。

それを見るのが楽しいと話すwasabi CRAFTさんの表情は、とても清々しく見えました。

クリーマクラフトパーティでは、関西での反応を楽しみに

- 今回、クリーマクラフトパーティにご出展いただきますが、どんなことを楽しみにされていますか?

 

wasabi CRAFTさん「私のものづくりの感性は学生時代から12年生活した京都・関西で培われたものだと思っています。その感性が今、関西でどう受け止めていただけるか、不安もありますが楽しみでもあります」

 

クリーマクラフトパーティのPVには、wasabi CRAFTさんのお財布が登場しています。ぜひご注目下さい!

【PV】Creema Craft Party 2016(クリーマクラフトパーティ)

インターネットの先にいる人を尊重したやりとりを。作家としてクリーマを盛り上げていく

- wasabi CRAFTさんにとって、クリーマはどんな場所でしょうか?

 

wasabi CRAFTさん「クリーマは、単なるインターネットのショッピングサイトではなく、血が通ったというか、関わっている人となりが見えるメディアだと感じています。作家さんもクリーマのスタッフの方々も購入してくださるお客さんもインターネットの先にいる人を尊重してやりとりしてくださっていることがとても嬉しくて有難いし、だからこそ、関わる一人として盛り上げていく一役を担えたらいいなと思っています」

 

- クリーマで特に思い出に残っているお取引のエピソードはありますか?

 

wasabi CRAFTさん「お財布をオーダーメードでご注文くださった方は、実物の画像ではなく私のつたないスケッチでご注文下さいました。初対面なのに信頼してくださってのことと思ったら、うれしいけど結構大きなプレッシャーもあって、単純に喜べない不思議な気持ちでした。ずっと忘れたくない気持ちでもあります」

 

「モノとの距離が近くなるスタイル」を提案していきたい

wasabi CRAFTさん「これからは、ライフスタイルを提案していきたいです。モノとの距離が近くなるスタイルとでも言いましょうか。モノのルーツを知ることで愛着がわき、使い続けて変わっていく様子に愛着がわき、モノを通して時間の流れを感じることも人生の愉しみかなと思っています。

西陣織やこぎん刺しといった伝統工芸を自身の製作に取り入れ、長く親しまれてきた工芸品の背景にある技術や経緯を、少しでも次世代に語り継いで行く。そうすることでその工芸のルーツを知り、より深みのある人生を作っていけるのではないかと考えています」

インタビューを終えて

「ずっと作りたかったお財布」をきっかけにお会いすることができた、wasabi CRAFTさん。お話をお伺いして、「ずっと作りたかった」という思いには、wasabi CRAFTさんの歩まれてきた道がぎゅっと凝縮しているように感じました。

自分の欲しいものを作りたかったこと、そして、ものは使う人によって表情が変わっていくこと...。きっと、「ずっと作りたかったお財布」は、愛用する方々の声によって、まだまだ進化していくことでしょう。その姿を見ることが今、とても楽しみです。

 

建築士として活躍されていたwasabi CRAFTさんは、きっと日々とてもお忙しく「ものづくりをしない、止めてしまう」という選択肢もあったはずです。でも、ずっと作り続けてこられました。それはきっと、「それでも作りたい」という強い気持ちに後押しされたからに他なりません。

 

作り手のものづくりへの情熱の深さに触れられた気がします。

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